怒髪天の「ホトトギス」は恋の歌だ。
中学2年生のわたしが乗った、閉まりかけのエレベーターに飛び込んできたのはあなたでした。私より先に降りたあなたは、外からエレベーターのドアを押さえわたしが降りるまで待っていた。それはまだわたしたちがお互いを認識する前の話。
名前も知らない人を好きになることができるのだということを、あなたはわたしに教えてくれました。
鳴かぬなら 俺は自分で鳴く
高らかに空を仰ぎ 響け俺の唄 ホトトギス
「ゆとりちゃんはどれだと思う?鳴かぬなら?」
「わたしは、鳴くまで待とう...かな」
「先生は...、鳴かぬなら いいよいいよ先生が鳴くから、って思う」
それは、怒髪天 初心者のわたしが手にしたアルバム『結成30周年アニバーサリーイヤー記念ベスト盤 問答無用セレクション‘金賞’Special edition』の2曲目「ホトトギス」を聴いたわたしの脳裏に鮮明に蘇る記憶。
そしてその瞬間この歌は紛れもないわたしの「恋の歌」になった。
その時は、相変わらず面白いこと言うなぁ、って思っただけだったけれど、それはもしかしたらわたしよりも何年か長く生きた彼の人生の話だったのかもしれない。
力こそがすべてと奪い取ったところで残る後味の悪さとか、
あの手この手の策に溺れる策士の惨めさとか、
腰を据えて待っては見たものの気付けば終わる人生の短さとか、
もしかしたらそういうことの経験からの言葉だったのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。もう今となっては確認する術はない。
8年のときを越えて、あの頃の自分に再会したわたしは、まだまだ捨てきれないあの人への憧れを思い出させた怒髪天を決して許さないし、同時に、自分の男を見る目を信用したのだった。
初めて聴いた怒髪天がいきなりわたしの痛いピンポイントを押さえてきたので、これからの怒髪天との付き合い方はもう少しよく考えてみることにしよう。(怒髪天がまさか恋の歌になるなんて思ってもみなかった。)
yutori.